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THE・対談 〜 株式会社いきいきらいふ・日下部社長
目次
求人と離職率への考え方、人事考課の取り組み
田中 3eeeでは、スタッフのブログやFacebook、InstagramなどのSNSを始めとしたWebツールを連携させた情報発信やPRを続けてきて、求人には少なからず影響はあったと思います。求人応募数で言うと、今は1ヶ月に70名位の応募がありますが、その多くの方がブログやSNSをご覧になっているようです。費用もほとんどかからないですし、継続的に更新しています。
日下部 この業界はエンドユーザーがなかなか増えていかないので、いかに会社を上手くアピールして求人に繋げるかが鍵ですよね。通常の求人と異なる側面からアピールが出来るし、3eeeさんの取り組みは会社のブランディングとして有効だと思います。
田中 最近はYouTubeでの動画配信もスタートしました。求職者が企業に対して知りたいことの1、2位は「経営者の考え」「企業理念」ですが、それらは会社のホームページを見れば分かることです。でも、3位は「社風」なんですよね。社風をどのように伝えることが出来るのか考えた結果、動画やブログを上手く活用していこうと思い至りました。その中で意識しているのが、専門用語を使用しないこと。情報の汲み取りやすさに配慮して、業界外の人たちを呼び込むイメージで展開しています。
日下部 私もそう思います。
田中 あと、採用後の話になりますが、介護業界は離職率を低くしようと頑張っている所が多いと感じます。でも、離職率ばかりに囚われず、採用の応募数を上げることにも注力する必要があるのではないでしょうか。アメリカの調査会社・ギャラップ社が開発したエンゲージメント調査※を弊社で行った時、結果が4・1と世界平均(3・6)よりも高い数値が出ました。それだけ会社に思い入れ・やる気がある社員がいるにもかかわらず離職率とのリンクは薄いですし、離職率だけにこだわり過ぎると、我々が求めるものとは掛け離れてくる気がします。
日下部 私も「人が辞めない会社=良い会社」だとは思いません。弊社も経営理念を刷新して、これから新たな戦略を打ち出すという時に、旧態依然とした考え方に縛られる社員はその変化に対応できないと思いますし、そこにこだわっていると会社経営は出来ないですよね。会社が新展開を打ち出すと離職率が上がったり、会社の動向が落ち着くと下がったり、離職率と企業成長はある程度リンクすると思います。だから、私は離職率より退職理由の方を気にします。どういう理由で辞めるのかということを掘り下げることの方が重要だと感じますね。
田中 そういえば、いきいきらいふさんで人事考課の新しい取り組みが始まるということですが、その話を聞かせていただけますか?
日下部 はい、外部企業による人事考課を実施する予定です。弊社のことも介護業界のことも一切知らない一般企業のビジネスマンに、弊社のスーパーバイザー(以下、SV)を評価してもらうんです。
田中 全社員が対象ですか?
日下部 全社員だと大掛かりになりますし、一定のレベルに到達している人材にはバランス良く育ってほしいという思いがあります。マネージャー・SVクラスの人材には苦手な領域を無くしてほしいので、そうすると“外”からの視点、一般的な視点で見て、当該社員がどう見えるのかが重要です。それを本人に理解してもらうために今回試験的に導入しました。もし上手く行けば、今後は対象社員の範囲を広げ、考課を依頼する企業を増やすことも考えています。
田中 組織の活性化として興味深いですね。
日下部 今年4月に新たな経営理念を掲げました。“BEYOND THE BORDER”といって、境界を越えて他者を助ける社会を創っていくという意味合いですが、会社の枠組みを超えてしまおうということでもあります。社員にすれば自分の市場価値は転職した時に初めて分かるものじゃないですか?でも、会社に在籍しながらその価値を醸成して、それを本人たちに理解してもらうことは大切だと思うんです。それに、こういう取り組みを面白いと思って、弊社に興味を持つ人がいるかもしれないので、これも求人活動の一環です(笑)。
スーパーバイザーの育成
日下部 SVを育てていく為に、SVが社外の環境に置かれた時にどういう評価が為されるのか可視化したいという思いがあって、今回外部企業による人事考課を導入することになりましたが、今後の成長や就業意欲をどう刺激するかが常に共通課題としてありますね。
田中 3eeeは複数の業態を展開しているので、SVを一人育て上げること自体が大変な中で、業態ごとにスペシャリストを生み出していくのは非常に難しいと考えています。そこでSVの高度な知識をAIに置き換えようという試みを今システム開発している段階です。チーム・組織づくりやコミュニケーション構築という点での課題は残りますが、知識レベルでのトレースならAIでも代替可能だと考えています。
日下部 遠隔で指導できる場合と臨店して実地指導する場合に業務を切り分ける必要があって、そこをSVが理解しているかどうかも大きいですね。事業所からの報告が本当かどうかの確認や書類整理、利用者様のご様子、スタッフの接客態度などは実際に事業所へ行かないと分からないことですが、数値の分析や営業方法の見直しは報告ベースでの指導が可能ですよね。その場面分けが出来ている人が案外少ないと感じています。そこが分かってくると楽しいですけどね。業績が上がらない事業所を立て直すために、実績や報告を吸い上げて付け合わせて、どの辺りでエラーを起こしているかアタリを付けたら、現場に行ってミーティングしつつ事業所内の雰囲気を見て、スタッフへのヒアリングもして、ズレを修正していくと自然と業績が上がっていきます。ここまで来れば、SVとして独り立ちできるのではないでしょうか。
新卒社員プロジェクト
日下部 弊社では新卒文化を大切にしていて、新卒入社の社員に自分たちで様々なプロジェクトを企画・実行させています。入社1年目は、会社の社内報を制作させるなど本当に色々な業務に携わってもらいます。社会に出てきて初めて出会う仲間だし、同期の社員を大事にしてほしいと思うんです。そういう繋がりは今後環境が変わっても消えることのない“一生モノ”だと思いますし、社会の受け皿として事業を行っている以上はそういう絆をつくってあげたいと思いますね。
田中 素敵な話です。
日下部 それに介護の会社に入社すると、現場の業務にしか携わらない社員が多いですよね。会社が実施する研修も介護研修がほとんどですが、それだけで仕事の本質的な楽しさを知るのは難しいじゃないですか。そこで介護と関係ないところで新入社員がプロジェクトを立ち上げることで、企画をつくる難しさ、実行にあたっての手配、協力者への要請、稟議書の作成・決済、エビデンスの提供、価値の提示など、会社の中で何か新しい事業を起こす時のベースとなる工程を総合的に学ぶことが出来ます。あとは実行後の振り返りや会社で実際に行われるプロジェクトとの比較分析など、そういうことが出来る力も養うことを目的としています。
田中 ちなみに今年はどんなプロジェクトが企画されているんですか?
日下部 今年は「高齢者の生活を追体験する」ということをテーマに、古民家に泊まって、戦時中に食べられていた食事のレシピを調べて、食材を調達して、薪割りから火を起こして、釜戸と囲炉裏を使って調理・実食するという内容です。あとは何か仕掛けをつくろうということで『実行当日前の1週間は芋しか食べない』という縛りが設けられました。
田中 過酷なプロジェクトですね!
日下部 もちろん私も参加者なので芋しか食べません(笑)。あと、内定者での合宿研修も行うのですが、合宿の様子を見ていると、リーダーシップをとるのは誰なのか、真っ先に食事の後片付けをやるのは誰か、誰と誰が良好な関係をつくっているか等、その中での役割分担が見えてきます。面接や会社での研修では自分を良く見せようと繕っていることもありますが、普段は見えない人の本質的な部分が見えてくるのが面白いです。
田中 新入社員時に様々な経験を経て、社歴が長くなってきた時にまた何か面白い企画をやりたいと言う人はいますか?
日下部 後輩が入社すると、後輩の育成に関わりたいと思う社員が多く、そういう人は今度は先輩として企画の運営側に回って後輩と関わっていくことが多くなりますね。あとはみんな採用に興味があるようで、新卒採用説明会や事業所見学など積極的に手伝ってくれています。その時、現場の仕事とそれ以外の仕事のバランスをとりながら、企画の目的や意図との紐づけを意識して動けるようになる必要があると考えています。