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THE・対談 〜 株式会社日本経営・古屋様
目次
人材獲得競争とビジネスチャンスとしての海外
田中 海外をビジネスという観点でみた時に、何か共通点はありますか?
古屋 介護事業者が海外に目を向けるきっかけは主に3つだと思っています。将来の安定した人材供給として技能実習生を受け入れたい場合、2つ目は企業として海外進出をしたい場合、3つ目は自社のサービスや製品を海外へ輸出したい場合です。私は東南アジアからの技能実習生の受け入れをメインに日本の企業に携わっており、自社でもタイで介護事業所を開設予定です。
田中 国内においても人材不足は確実に始まっています。その中で、企業が海外人材に目を向け、受け入れる準備を進めていくことは重要になってきますね。
古屋 技能実習生の受け入れは、既に過当競争が始まっています。最近は、日本企業が現地で人材紹介業をやりたいという相談も増えており、自社にも海外人材供給をしながら、他社にも海外人材を供給するという流れが増えてきているように思います。
田中 アジア健康構想についてはご存じかと思いますが、東南アジアにおける各国の状況はいかがですか?
古屋 例えば、アジア主要新興国の中で最も速いペースで高齢化が進展しているタイでは、介護分野における技能実習制度の活用はほとんど進んでおらず、その背景には、タイ国内である程度の賃金を稼ぐことができる環境があげられます。1人あたりのサラリーが最下層でも4万円程度で、タイの首都であるバンコクで働くと7~8万円を稼ぐことができるので、技能実習生として海外で働くことに対しては、あまり魅力がありません。
田中 人口の側面からみると、タイは少子化の問題もあり、人材不足も懸念されますね。御社では既にタイでの介護事業所の開設が決まっているとのことですが、そこでビジネスをやっていく中でそういった人材の面以外にもポイントはありますか?
古屋 御社が自立支援に着目しながら、リハビリを含めたお預かり型ではないモデルの介護事業所を運営しているように、タイでもある程度リハビリが注目されています。しかし、ふたを開けてみるとプール内での運動などのハイドロセラピーがもてはやされているなど、まだまだ古いリハビリなのが現状です。水中リハビリについては、日本では既に投資的にはリターンがないことが分かっていて、現在はあまり提供されていませんね。リハビリのニーズはありながらも、古いサービス提供になってしまっているので、現在の日本で提供されている介護サービスやケアの手法が、これからタイでも広がっていくでしょう。
高齢化率もさながら、出生率も低く、既に日本を下回る少子化社会になっていますので、そういった意味でもニーズは大きいと思います。
田中 私がタイへ視察に行ったときに着目したのは、理学療法士の処遇や社会的地位の低さです。これを何か活用できないかなと。日本でも、柔道整復師における医療ニーズが低くなっていましたが、介護の分野での活用によって、その活躍の場が広がっていったというプロセスを見ているので、タイでは理学療法士をリハビリスタッフとしていかに活用できるかがポイントになるのではないかと思います。
私たちはフランチャイズで事業を展開しているので、各国への進出を考えたときに、現地の企業がどの程度成長しているかが重要になってきます。例えばベトナムでは、高度成長のさなか大手会社が少なく個人ビジネスが大半です。タイはどうですか?
古屋 タイは、財閥系の会社が数社あります。東南アジアの中でも先進国とされているタイが発展した要因のひとつとして、日本のサービスモデルのフランチャイズ進出がよくあげられています。コンビニエンスストアや化粧品ブランドなど、様々なサービス店がフランチャイズとして参入しています。
田中 都市別経済成長率の1位と2位(ハノイ市・ホーチミン市)を独占するベトナムはどうでしょう?
古屋 今、東南アジアで人材獲得競争が1番高いといわれているのがベトナムです。日本もその中である程度のシェアをとりつつあると思っています。特にベトナムは、国内に看護師が余っているところが、ミャンマーやインドネシアとは大きく違う点です。ミャンマーやインドネシアは看護師が足りない状況なので、看護師を出さないでほしいという思いがありますが、ベトナムは看護師の働く場所が非常に少ないんです。給料も安く、国外で働くしかないという状況でもあります。
田中 なるほど。ベトナムはとても人気でかなり多くの人材が日本にも来ていますが、人材還流という観点でみると、ベトナムに戻った後の働き口がかなり少ないようにも感じます。ベトナムからの技能実習生が母国に戻った後の働き口や、日本企業のビジネス展開はどのような動きになっていますか?
古屋 私が知っているところで、戻った後を想定して動いている医療法人、介護事業所が4社あります。そういった企業は技能実習生がベトナムに戻ったあとを想定して、自社の現地事業所で働いてもらう人材還流の考え方をもっています。皆さん自立支援をテーマに掲げてらっしゃる企業ですので、今後もこういった還流の流れは増えていくのではないかと思います。ベトナムは、2017年に高齢化社会を迎えており、2034年には高齢社会(高齢者人口比率14%)になると予想されています。高齢化社会から高齢社会への移行期間は17年と特に短く、急激なスピードで高齢化が進んでいる国ですので、介護事業所はこれから急速に増えていくでしょう。
田中 インドネシアの人材はとても良いと聞きますね。
古屋 東南アジアでは人口が1番多い国ですし、都市別経済成長率ではインドネシアの首都であるジャカルタが3位と発展している国ですが、宗教を問題とする企業は多くいます。イスラム教という点が敬遠されがちですが、御社グループでも既に技能実習生の受け入れを決めてもらっているように、宗教がトラブルになることはほぼないです。私はインドネシアは重要かつ日本企業が人材を獲得しやすいマーケットだと思っています。
田中 一方でミャンマーは、海外人材の受け入れが日本でも進んでいますが、こちらの技能実習生が母国に戻った後の働き口や、日本企業のビジネス展開はどのような様相を呈していますか?
古屋 ミャンマーの人材や技能実習生、送り出し機関の仕組み自体は非常に良いと思っています。ネクストベトナムとも言われていて、人口もそれなりに多くGDP(国内総生産)の低い国なので、そういった意味で日本に来たいという人材が増えています。これからも受け入れは増えていくでしょう。しかし、ミャンマーでのビジネスチャンスは15年先くらいと予想され、技能実習生が戻るタイミングとのタイムラグは大きいと感じます。
海外人材の登用とガラパゴス化した日本の労働環境
田中 日本の介護事業者のうち、施設系の大手企業がこぞって人材の獲得に走っているように思えますが、その他の中小零細企業が海外人材を活用、もしくは海外でのビジネスチャンスとしての活路を見出すというところのリテラシーがまだ低いという状況をみて、コンサルティングの立場からはどう考えますか?
古屋 そういった意味では、御社はそこの先駆者なのかなと思います。今はもう、外国人が暮らしていたり、働いていたりすることはもう当たり前になってきています。そんな中、いまだ日本企業は自社社員の何パーセントが外国人だということを気にしています。世界に目を向けた時に、そんなことを気にしている企業はほぼありません。日本に暮らす方の3割が外国人という状況になっていかないとおかしいと言われる中で、中小零細企業だろうが大手企業だろうが「3割程度が外国人という状態が当たり前」という文化を作れた会社ほど、海外でのビジネスチャンスも増えるでしょう。海外でのビジネス展開に不安を感じているのであれば、まずは国内で自社社員の外国人の割合を3割程度まで増やしていく。それ自体が答えではないけれど、それだけでも海外でビジネスを展開していくという感覚の素養は生まれると思います。
田中 日本の労働環境は、先進国の都合の良いところだけをかいつまんだ状態になっていて、ガラパゴス化してしまっていますね。日本の古き良き労働環境というものを東南アジアの人が実現してくれるイメージがあるのですが、そのあたりはどう思われますか?
古屋 そうですね。古き良き日本であったり、働くことの意味を改めて振りかえらせてくれるという意味では、海外人材の登用は今いる日本人に影響を与えると思います。よく「他流試合をしましょう」というのですが、いわゆるガラパゴス化や社内にこもると、皆さん他流試合をしなくなる。海外人材を登用することで、対外試合、国際試合が当たり前にできる環境というのは必然的に高まっていきますので、そういった形での海外人材の登用は非常におもしろいのではないかと思います。