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THE・対談 〜 株式会社早稲田エルダリーヘルス事業団・筒井社長

ICT機器の開発など早期から介護×テクノロジーを展開する早稲田エルダリーヘルス事業団(以下、早稲田EHA)の筒井社長に、介護のICT化と医療業界への進出、日本企業の海外進出についてお話しいただきました。(※このインタビューは2020年6月に行われました)

目次

介護ICT化の先駆者として

筒井 3eeeのスタッフの方々とお会いすると、皆さん田中社長と一緒に仕事をするのが楽しくて働いている人たちばかりだなという印象を受けます。田中社長はすごく理想的な組織づくりをされていると思います。

 

田中 ありがとうございます。私からすれば、早稲田EHAは私が介護業界に参入した時から業界のトップランナーというイメージがずっとあって、今もその背中を追いかけています。介護のICT化・介護×テクノロジーという点でかなり早期の段階から取り組んでいる早稲田EHAが、最初ウェアラブルIoTを活用したサービスを始めて、それから歩行能力解析デバイス『AYUMI EYE』の開発に至るまでのプロセスを是非お聞かせください。

 

筒井 これは様々な事象に共通する話ですが、「介護業界にICTが必要だから」という発想から始まった訳ではなく、自社の力だけで何か新しいモノをつくるというのが難しくても、外部のヒト達と協同で取り組む事で、自分達だけでは為し得なかった事が出来るかもしれないと。その観点から、様々な方々との接点を持つ事はずっと続けています。その中で、テクノロジーを持っていても実際それをどの領域で活用したら良いか悩むヘルスケア・ベンチャーの方が多くて、一方で人口動態から見て“高齢者向けに何か出来るんじゃないか”という仮説を立てる方も多数います。そこで「ウェアラブルを使った介護サービスを展開しよう」とか、「高齢者の歩行を“見える化”してデータとして蓄積してみよう」とか、ヒトとの出会いの中で着想を得て生まれたという感じですね。

 

田中 東京は色々なヒトがいますからね。

 

筒井 出会いはすごく多いと思いますね。特に異業種の方々との接点を得やすい環境だと感じています。あとは、現在の日本における社会保障の状況から言えば自立支援や介護予防が非常に重要で、再現性のある形できちんと仕組みをつくる為には、データをしっかり蓄積して、エビデンスに基づいたサービスを構築しなければなりません。そういった考え方と私達がやりたい事のベクトルが近い所にあって、試しにやってみたら実際に面白そうな結果を得られて、そこから深堀りしていきました。

 

田中 費用はどれくらい掛けていますか?ちょっと想像もつきませんが・・・

 

筒井 そこはレベニューシェア※によって開発費をかけないようにしています。「我々は現場の知見を提供するので、開発リソースを提供してください」という事ですね。自社でしっかり費用をかけて進めているのは『AYUMI EYE』くらいです。元々他社が開発した製品を我々が丸ごと購入して、その後様々な改良を加えていきました。

 

田中 改良するのはソフトの方ですか?

 

筒井 はい、ただハードのマイナーチェンジも外注で行っています。『AYUMI EYE』は購入した時点では今の形ではなかったのですが、使い勝手が良いものに改良した結果、現在のモジュールとベルトの形になりました。現在モジュールは自社で製造しています。

 

田中 早稲田EHAも介護のフランチャイズを展開していますが、そこからICT化などアライアンス(提携)によって何かを生み出すというプロジェクトを社内のどれくらいの人数で進めるんですか?

 

筒井 私にプラスして2、3名ですね。随時内容は把握してもらった上で、最初はある程度の所までは私が進めて、徐々に他のスタッフへ移行していきます。うちは元々介護業界に携わっていたスタッフが多いんですよね。

 

田中 個々が新たな業務の分野を切り開いていくんですね。仕事のやりがいにも繋がりそうです。

 

筒井 スタッフがそういう事を楽しみながらやってくれている部分は大きいですね。実は、私自身は介護の仕事を9ヶ月しか経験していません。デイサービスの施設長として立ち上げにかかわった時だけです。だから、介護の現場周りの仕事は他のスタッフに任せて、会社として発展・拡大する下地をつくったり、スタッフが成長する環境をつくっていくのが自分の仕事だという認識でやっていますね。

 

※レベニューシェア…『収益分配型』契約のこと。システムの開発にあたり、開発側が費用を負担して
システム開発を行い、そこで得た収益をあらかじめ決めておいた割合で依頼側・開発側がシェアする。

“医療から介護へ”の可能性

田中 早稲田EHAは介護予防運動プログラム等のシステム開発に着手したのも、かなり早かったですよね。私もリハビリ型のデイサービスを展開しているので興味はあるのですが、北海道内で手を組んでくれる企業がほとんどおらず、筒井社長の様にはなれないと実感しました。業界内販売モデルを構築するのもなかなか容易ではない気がします。

 

筒井 そのような販売モデルは沢山ありますが、やっぱり我々が運営する業態とは合わない場合が多いですよね。もし、既に何か完成している仕組みがあれば、そのまま利用できるだろうと思います。

 

田中 他社が様々なシステムを開発しているので、私もそこに追いつきたい所です。

 

筒井 『AYUMI EYE』も介護事業の領域だけで販売していくには限界を感じています。そこで先日、医療機器の承認を取得して、整形外科でも診療報酬の加算が付くようになりました。ただ、実はその加算がまだあまり認知されていません。競合製品がかなり高額で売られている背景もあるので、それらとの差別化を図る事で医療業界への販路を広げていって、それで何とか利益に繋げていけないかなと。

 

田中 デイサービス以外の業界の方が可能性を感じますよね。

 

筒井 そうですね。医療や施設系サービス、自治体などに目を向けています。医療機関で使用していただいて医師に認知される事で、介護現場の人達も使いやすくなる一つのきっかけになれば良いと思う部分もあって、一旦軸足を移そうかと考えています。

 

田中 そう考えると、道のりは長いですね。

 

筒井 そうです。先日も厚生労働省へ相談に行って、科学的介護データベース『CHASE』と手を組む方法を模索したり、あとは国立長寿医療研究センターが開発した『オンライン通いの場アプリ』との連携を提案させていただいたり、打てる手はどんどん打っている状況です。

 

田中 今、弊社でも24時間、バイタルデータや活動情報を集積できる仕組みを思索中で、それを上手く活用して“24時間デイサービス”を可能にしようと考えています。それが多方面で認知されて広がっていけば面白いですね。

日本企業の海外進出

筒井 3eeeでは海外からの技能実習生の受け入れを展開していますが、海外進出についてはどうお考えですか?

 

田中 海外進出を考える際に、ただサービスを提供するだけでも成立しそうな気はしますが、他の追随を許さない為にどうすれば良いのかを常々考えていますね。

 

筒井 海外には介護保険制度に近しい制度はあるんですか?

 

田中 アジア諸国を中心に視察に回りましたが制度は特に無いので、政府機関にカウンターパートを担ってもらい、行動する形が望ましいと考えています。3eeeがベトナム、インドネシアから技能実習生を受け入れているのは人材還流という観点からですが、日本の企業は技能実習生が母国へ戻る時に自らのインフラを整備するビジネスチャンスとして捉えている所が多いように感じます。しかし、それは昔のコーヒー栽培のような、先進国が土地を奪い、労働を低賃金で搾取する図式に似ていますよね。そうではなくて、ベトナムの資本がベトナムの人材を採用するという仕組みの方が国益も損ねず、かつ3eeeのフランチャイズ展開のモデルに填まるんじゃないかと思っています。

 

筒井 では、海外での事業展開はまずベトナムを考えているんですか?

 

田中 はい。フランチャイズビジネスなので、ベトナムで成功すれば恐らく他の国でも上手く行くだろうと考えています。アジア健康構想において、介護事業者の海外事業への支援を政府が行っているので、それを活用する事も視野に入れています。

 

筒井 医療の国際展開推進においては、経済産業省が支援する『メディカル・エクセレンス・ジャパン』という一般社団法人で医療技術・サービス拠点化の促進事業を公募していますが、今後そういった官民連携の制度を活用する企業もますます増えていきそうですね。

株式会社早稲田エルダリーヘルス事業団 代表取締役社長(当時) 筒井 祐智
都市銀行、医療コンサルティング会社を経て、医療法人へ入職。クリニック、介護事業所の新規立ち上げ、人事業務などを経て、2014年より現職に就任。早稲田大学スポーツ科学学術院との産学連携による介護予防特化型デイサービス「早稲田イーライフ」を全国に展開。2021年5月、代表取締役社長を退任。
株式会社3eee 代表取締役 田中 紀雄
2010年(株)ヒューマンリンクを設立し、2019年(株)3eeeに会社名を変更。介護、障がい福祉における総合在宅ケアサービスを展開。(一社)日本デイサービス協会 副理事長も務める。