FREE
THE・対談 〜 ベストリハ 株式会社・渡邉社長
※DX:Degital transformation(デジタル・トランスフォーメーション)の略。企業がデータやデジタル技術を活用し、製品・サービス・ビジネスモデルを変革することで、価値提供の方法を抜本的に変えること。
目次
DX化構想のきっかけとシステム開発の裏話
田中 御社のパンフレットを拝見すると、DXの推進に注力されていることがうかがえますが、渡邉社長のDX化構想の全体像は、いつ頃に固まったのでしょうか?
渡邉 構想は2年前からありましたが、本格的に取り掛かったのは1年ほど前からです。3年間である程度の形をつくって、周知できる状態にする計画で進めています。極論ですが、10年後には問診が医療行為から外れれば良いと思っています。今の医療や介護が持続可能な体制ではないですし、そこで一番逼迫しているのが医療だと感じています。多額の費用もかかるし、優秀な医師が問診に時間をとられることも懸念されます。もし、日常的に患者のデータが取得できて、あとは問診や診察が医療行為でなければ、それを行う人が医師でなくても良いことになります。そこから、今度は世界中がつながるとシームレスな医療が可能になり、医療格差が無くなって、医師が集中すべきことに集中できる環境をつくる・・・DX化によってそういう状態にするのが理想ですね。
田中 最終的には世界にまで目を向けているんですね。当初から世界規模での構想を立てていたんですか?
渡邉 そもそものきっかけが2年前、ロサンゼルスの事業所へ視察に行った時に90歳位のおばあさんがUber(自動車配車アプリ)を使って出掛けていく姿を見たんです。テクノロジーや新たなサービスによってその人の生活が変わるところを間近で目撃したことで、私自身も「より多くの方々の生活が一変するようなモノやサービスを提供したい」「テクノロジーで生活を変えられるような仕組みをつくりたい」と思うようになり、そこから自然と“世界を変える”という考えにたどり着きました。
田中 スマートバンドやタブレット等のハードウェア開発も自社で行っているんですか?
渡邉 はい、今ちょうど製品製造のための型を発注して作っているところです。システムの開発もこれと並行して進めています。
田中 他社の製品は使用しないのですか?
渡邉 スマートバンドは既存機器の基盤を用いていますが、ファームウェアやデザインも改良していますし、システムも自社で開発して機器に適合させていくので、そう考えるとほぼ弊社オリジナルのハードウェアと言えます。タブレットは海外の製品を日本に導入する予定です。無線機器を日本で使用する場合、電波法に定めた技術基準に適合した「技術基準適合証明(技適マーク)」が必要ですが、この認可がおりると自社商品としては弊社独自のものということになります。
田中 そこまで作り込んでいるんですね。スマートバンドのデータ取得は通信で行う仕様なのでしょうか?
渡邉 利用者様が事業所に通所した際にタブレットでデータを一括して吸い上げる想定で開発に着手しています。7日分のデータが蓄積できるので、週1回の通所でも問題がない仕様になっています。さらに、今後は送迎システムの開発も行う予定ですが、そうなると送迎車内にタブレットが常備されるので、利用者様が乗車した時点でバイタルデータの取得が始まり、事業所に着く頃には取得が完了するようになります。ただ、これらは医療機器ではないので、取得したデータが正しい数値であるかを最後にスタッフがチェックして初めて記録される仕組みにしています。これが実現すれば、利用者様の負担も少なく済みますし、スタッフの作業効率化にもつながります。
田中 DX化の開発計画は現在どこまで進められているんでしょうか?
渡邉 現時点では計画書作成支援サービス『はやまる』が完成しています。まず『はやまる』で事業所支援をして、データの蓄積を進めながら、次に先ほど述べた送迎の自動システム化と連絡帳のタブレット化ですね。そこでインターネット環境が普及したら、「スマートバンドでどのようなデータを取得しましょうか」という提案が可能になります。ここまで出来ると、事業所にとっても他社との差別化を図れるので、そこから収益へとつなげたいです。
田中 同じDXでも色々な手法が考えられますね。弊社のDXとしては、今ポータルサイトの制作を進めています。福祉業界と異業種ビジネスの橋渡しになるような位置づけが狙いです。専門分野で開発コストをかけて他社と競争するよりも、このウェブサイトをプラットフォームとして、他社製品・サービスのPRをしたり、様々な会社とのパイプをつくったりすることで協力体制を築いていきたいと思っています。是非『はやまる』の宣伝もさせていただきたいです(笑)。それからノウハウを集積していくクラウドAIの開発ですね。私たちのようなサービス業は日々ノウハウの蓄積があるじゃないですか。それをビジネスとして活用できるように組み込んでいくAIを造って、ゆくゆくはそれを様々な業種の方に応用していただきたいと考えています。これが3eeeのDX化の柱ですね。
介護DXが抱える課題
田中 DX化を実現する上で、なるべくサーバー上で多くのデータを取得できるように各社でIoT※化を進めていると思いますが、このデータを今度はどのように噛み砕いて、分かりやすく活用していくかを考えなければなりません。この点について渡邉社長はどのようにお考えでしょうか?
渡邉 今の状態だと、蓄積されたデータを活用するには不完全だと認識しています。何故かと言うと、これは『はやまる』もそうなのですが、「リハビリを実施しました」と記録上には残っていても実際に実施したかどうかは分からないですし、データとしては非常に粗いものです。では、どのようにデータを取得すれば良いかというと、食事・睡眠・排泄・運動などのデータを24時間365日取得し続けて把握すること、つまり日常生活を全て数値化することで初めてDXが可能になると思います。
田中 今の技術でも様々な機器を使ってデータを取得することは出来ますが、高齢者の周辺にはそのような機器が無いからデータが取れないんですよね。介護業界のDX化が進まない理由もここにあると思っています。
渡邉 そもそも高齢者の自宅にインターネット環境が整っていないとDX化は不可能だと思っているので、最低限、利用者様の自宅にインターネットを導入することから考える必要があります。弊社の場合はその導入方法として、現在使用している事業所との連絡帳をタブレットに置き換える予定です。タブレットを月額制で安くレンタルすることで、利用者様の自宅にもインターネット環境が整うので、そこでやっとスタートが切れると考えています。
田中 高価な機器でなく安価なタブレットのレンタルなら確かに無理なく導入できますね。日常のデータを集積することにおいて、何か取り組んでいることはありますか?
渡邉 今『ヘルプケア』というアプリを制作していて、これは取得した一人ひとりの健康記録データがSNSの記事になるようなイメージで、デイサービスへの通所や訪問等の記録が記事になって表示されるアプリです。さらにスマートバンドのデータも蓄積されると、それらの記録を全て集約したものが月に一度報告書として作成され、それがまた記事になる・・・という仕組みです。そして、アプリ上で利用者様の記録を多職種の方々が閲覧でき、そこでの連携もとれる等、アプリを介して色々なことがつながっていくのかなと思っています。
田中 今、各社がDX化やIoT化を進める中で取得したデータをどのように共有・一括化するかも課題だと思いますが、これに関して渡邉社長の見解はいかがでしょう?
渡邉 システムのデータベースがあれば連携することが出来るので、自分たちでデータベースをコントロール出来る状態になれば、そんなに大変なことではないと思います。それぞれのデータ構造がクローズドな領域でのみ有効な構造を持っているので、その構造をオープンスペースでも使えるように組み替えさえすれば、費用や工数はかかるにしても出来なくはないでしょう。ただ、運営側からするとメリットは大きいですが、システム会社にはコストの割にメリットが無いので、そこで足踏みしてしまうのではないかと思いますね。
田中 弊社でもIoT導入を検討していますが、既に導入している他社を見ると、取得データを自社のシステムと連携させた上で活用しているようですね。
渡邉 私も今スマートバンドを装着していてデータが記録されていますが、あまり有効的に活用できていないです。取得したデータをどう上手く活用していくかがこれからの大きな課題だと思います。製品をつくるのは業者ですが、その導入を進めるのは私たちであって、「どういう思いでつくったか」「どういうことが出来るのか」「どんなメリットがあるのか」等を現場スタッフが利用者様に対してしっかりアピールできれば導入がグッと進みますよね。リアルな現場を持っていることも弊社の強みだと思うので、ここも一つの集客チャンネルとして考えたら、そこでデータを取ることにも大きな意義があると考えています。
※IoT・・・Internet of Things(モノのインターネット)の略。従来インターネットに接続されていなかった
様々な「モノ」がネットワークを通じてサーバーやクラウドサービスに接続され、相互に情報交換をする仕組み。